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抽象と具体の表現、その往還の意味を問う論考、思考のダイヤグラム。抽象と具体の表現の往還は創造行為に、芸術にいかに結実するか。この問いを原動とする著者は文学、絵画、写真、映像の作品を貫きながら思考のレールを延ばし創造行為の始発へと思いを巡らせる。カズオ・イシグロ、V・S・ナイポール、夏目漱石らをターミナルに、思考のメタ列車は今回もまた多数多様な作品の岸打つ波のごとく響く。

ジャンル
一般・その他  
サブタイトル
創造行為を描き出すこと
タイトル
抽象と具体
著者・編者・訳者
栂正行著
発行年月日
2020年 5月 20日
定価
2,420円
ISBN
ISBN978-4-9907755-4-4 C0070
判型
四六判並製
頁数
218ページ

著者・編者・訳者紹介

栂正行(とが・まさゆき)
東京都立大学人文科学研究科博士課程中退。同大学人文学部助手を経て、現在中京大学教養教育研究院教授。著書に『創造と模倣』(三月社)、『引用と借景』(三月社)、『コヴェント・ガーデン』(河出書房新社)、『絨毯とトランスプランテーション』(音羽書房鶴見書店)、『土着と近代』(共編著、音羽書房鶴見書店)、『インド英語小説の世界』(共編著、鳳書房)、『刻まれた旅程』(共著、勁草書房)、訳書にアルフレッド・ダグラス『タロット』、リチャード・キャヴェンディッシュ『黒魔術』、『魔術の歴史』(いずれも河出書房新社)、マテイ・カリネスク『モダンの五つの顔』(共訳、せりか書房)、V・S・ナイポール『中心の発見』(共訳、草思社)、サイモン・シャーマ『風景と記憶』(共訳、河出書房新社)、カミール・パーリャ『性のペルソナ』(共訳、河出書房新社)など。

内容

第一章 抽象と具体の相貌 言葉と都市空間のエスキス
第二章 作家と作品の部屋─チャールズ・ディケンズの具体
第三章 漱石の具体から抽象へ
第四章 新宿と一九七〇年代東京
第五章 旅の具体から抽象へ 創作ノートとトラベル・ライティング  ──三島由紀夫、エリオット、川端康成を巡って
第六章 抽象のアジア ウォン・カーウァイのメタフィクション
第七章 書くことの自意識 作家・詩人・哲学者の映画から

目次

はじめに 2

第一章 抽象と具体の相貌 言葉と都市空間のエスキス 15

抽象のことばの始まり 16
カズオ・イシグロ作品の抽象(一) 18
イシグロ作品と先行の英文学 21
都市の絵画、高層ビルの映す抽象 23
光と陰の抽象 27
ロンドンの霧の抽象 29
『忘れられた巨人』の霧と記憶の喪失 32
外装、雪、雨、音楽、服装、季節、自然の抽象 35
箱と移動、路線の抽象 43
五つの名詞 47


第二章 作家と作品の部屋─チャールズ・ディケンズの具体 51

不条理と観察 52
ディケンズ作品の衣と食 55
イギリス文学の住いと間取り 59
安堵できる家とスラムと 65
墓と阿片窟、不可視の場所 67
ロンドンを歩く、イギリス文学の具体を楽しむ 71
ディケンズの楽しみ 74

第三章 漱石の具体から抽象へ 81

漱石の具体、場所と旅 82
『吾輩は猫である』、『坊ちゃん』、『二百十日』 85
『草枕』、『虞美人草』、『それから』 89
移動と定点、具体から抽象の晩年へ 92


第四章 新宿と一九七〇年代東京 99

新宿文化 100
新宿はいつ行っても工事している 103
それぞれの新宿 104
七〇年代東京の抽象、植草甚一とカンディンスキー 107
ブローティガンの抽象化された日本 110
仮面の居留地 114

第五章 旅の具体から抽象へ 創作ノートとトラベル・ライティング
 ──三島由紀夫、エリオット、川端康成を巡って 117

『潮騒』の島の抽象と具体 118
旅とフィクション 122
西行と芭蕉への旅 124
抽象と具象の月 127
日記と作品ノートの抽象 129
三島の紀行文、川端『古都』の抽象 134
作品世界の抽象性 137
カズオ・イシグロ作品の抽象(二) 141
見慣れぬ土地という抽象化 144

第六章 抽象のアジア ウォン・カーウァイのメタフィクション 147

カーウァイ、非日常と仮面 148
『花様年華』のメタフィクション性、メタフィルム性 152
文学史のなかのメタフィクション 156


第七章 書くことの自意識 作家・詩人・哲学者の映画から 161

レールを運搬する列車 162
実在の作家の架空、架空の作家の実在 164
具体の死と抽象の生 166
配偶者の具体と抽象 169
自省的作品の抽象 171
書くことの強迫と作家の隠遁 172
代わりに隠された真実を書くという危険 175
リアリズムのルールと創造の秘密 177
作家でなくなるということ 180
作家の誕生と自己の分裂 181
芸術と人生、それぞれの意味と無意味と 184
現実の生活から本という抽象へ 188
詩と哲学の抽象と日常生活の具体 189
抽象と具体の往還、創造の持続 194

おわりに、そして、はじまりに 197
作品年表 206
地名さくいん 211

◉本書より
「抽象と具体という正反対の表現の営みが人の芸術とその創造にいかに寄与するか。本書ではそれらを探るため、絵画、写真、映像、文学、言語という入口を用意し、さまざまな作品をとりあげる」
「抽象と具体の幸福なる反復はおのずと創作に結実する」
「読書とは、具体の「いま─ここ」から離れた抽象の「いつか─どこか」へと思いを巡らせること
「文学史そのものがメタ性にこだわってきた」
「抽象と具体の往還に創造者の創造行為のありようが見え隠れする」
「作家は、抽象より始め具体に至る、あるいは具体から抽象に至るというかたちをはじめ、幾多の抽象と具体の往還の反復により、創造行為を持続する」
「人の営みは抽象に始まり、具体に転じ、そして抽象にて閉じる
「夜の帳は自然の具体を暗闇で覆い、抽象化に一役かう。深夜の思考が冴えるのにはそれなりの理由がある。画家は光のもとで絵筆をとり、小説家は日が落ちてから活動を開始する」
「闇が覆う。雨が覆う。雪が覆う。その延長上にあるのが、芸術」
「夏は具体の季節。暑い。水に飛び込む。水という自然そのものとじかに接する。夏は木々が生い茂る。林に入る。森に入る。人と木々の間に介在する人工はない。人は草木に触れ、土の道に触れ、なによりも都会のそれとはことなる空気を体内に入れる。」
「冬は抽象の季節だ。抽象とは脱自然でもある」
「モーリス・ド・ブラマンクはよく雪に覆われた街を描いた。普段、街は建物、通り、人などと具体的な構成要素から成り立っているし、それらがそのまま目に入って来るのだが、雪に覆われると一面の白、ないし灰色に景色が変わり、その単一な色彩が人を抽象的世界に誘う」
「ナイポールが抱え込んでいた具体的な課題と、デ・キリコのごく初期や中盤の具体的作品とでは、相互に共通するものが少なからずある」
「漱石にあっては、旅と創作行為の円熟期と最後の十年が一致した」
「船客たちの抽象的な生活、それは必ずしも純粋な精神生活の保障とならない。」(三島の紀行文、川端『古都』の抽象)

◉言及する作家など
カズオ・イシグロ、V・S・ナイポール、高野悦子、フォースター、ブロンテ、デ・キリコ、ウッディー・アレン、夏目漱石、谷崎潤一郎、ブラマンク、ウルフ、ナボコフ、カフカ、植草甚一、カンディンスキー、ブローティガン、西行、芭蕉、オースティン、エリオット、三島由紀夫、川端康成、吉田健一、安部公房、ガーランド、ウォン・カーウァイ、アガサ・クリスティー、グレアム・グリーン、ジョイス、永井荷風、井上光晴、サンド、キーツ、ポー、ヴェルレーヌ、マルクス、エンゲルス、シルヴィア・プラース、ウィトゲンシュタイン、アレハンドロ・ホドロフスキー

◉言及するメタフィクションを扱う映画や小説
『アガサ 愛の失踪事件』『スルース』『第三の男』『ことの終わり』『ジェイン・オースティン 秘められた恋』『ミス・ポター』『ノーラ・ジョイス 或る小説家の妻』『プロビデンス』『小説家を見つけたら』『ライ麦畑をさがして』『ダイアナ妃の小説家』『ルビー・スパークス』『ツイン・ピークス』『濹東綺譚』『全身小説家』『ゲーテの恋 君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」』『詩人、愛の告白』『ブライト・スター いちばん美しい恋の詩』『推理作家ポー 最期の五日間』『太陽と月に背いて』『めぐりあう時間たち』『マルクスとエンゲルス』『抱擁』『シルヴィア』『ウィトゲンシュタイン』『エンドレス・ポエトリー』『パターソン』